PL配合顆粒が処方された患者さんが前立腺肥大症であることは認識していたものの、処方歴があり副作用歴がなかったことからそのまま薬剤を交付

■作成日 2018/2/23 ■更新日 2018/5/8

 

 

薬剤師ならば多かれ少なかれ経験したことがあるだろう調剤過誤。職業柄避けて通れない自らのミスから、医師の処方ミスまで要因は様々です。このコーナーでは、薬剤師の皆様が調剤過誤、そして調剤事故に少しでも遭遇しないよう、他の薬剤師さんが実際に経験した「調剤過誤にまつわるヒヤリ・ハット事例」を物語でご紹介しています。


 

私は内科クリニックの門前薬局で管理薬剤師をしている40歳代の男性薬剤師です。
内科クリニックから受け付ける処方せんは1日に100枚前後で、薬局に勤務している薬剤師は私の他は全員女性です。

 

経過の長い患者さんが多く、特に中高年の患者さんはほとんどが顔なじみです。近くに総合病院があるのですが、予約を入れておいても待ち時間が長いため、ちょっとした風邪やケガだとこちらの内科クリニックを受診される方が多いようです。

 

今回PL配合顆粒で尿閉を起こしてしまった患者さんは、60歳代前半の男性です。

 

胃腸が弱いとのことで、内科クリニックでは胃の薬などが定期的に処方されていました。数年前に前立腺肥大症と診断されており、総合病院の泌尿器科も受診していました。

 

お薬手帳をあまり持ってきてくれない方で何度か持参をうながしているのですが、「わかったわかった。」と笑顔で答えるだけで半年に1回くらいしか持ってきてくれません。ほかの薬局にもお薬手帳を持っていっていないようで、併用薬の確認は十分にできていないというのが実情でした。

 

今回の処方は、定期薬である胃の薬とPL配合顆粒でした。
今までもPL配合顆粒は何度か処方されていましたが、特に副作用などの問題はありませんでした。

 

今回の服薬指導は私ではなく女性薬剤師が担当しました。
お薬手帳の提出がないことから口頭で他科受診や併用薬について確認をしたのですが、「前と一緒だよ。何も変わりないよ。」というだけで最近の詳しい病状や併用薬についての確認はほとんどできませんでした。

 

もちろん薬歴には前立腺肥大症との記録もあったのですが、患者さんの「何も変わりないよ」との言葉をうのみにしてしまったのです。

 

また、今までも何度か処方されたことのある薬であることから「今回も大丈夫だろう」という思いがあり、副作用として生じうる眠気や口渇、尿閉などについて一通りの説明を簡単に行って服薬指導を終えてしまいました。


半日後、患者さんが再来局。男性薬剤師を手招きで呼び寄せ小声で「おしっこが出ないんだけど…。」と困惑気味に告白。PL配合顆粒による尿閉を疑い、総合病院の救急外来を緊急受診

しかしその日の閉店間際に、その患者さんが再来局したのです。
キョロキョロと店内を不安そうに見回し、私と目が合うと「ちょっとちょっと…。」と手招きしてきたのです。

 

何事だろう?と思い声をかけると、あわてたように「しーっ!」と人差し指を口に当て、私を店のすみに連れて行ったのです。そして、困惑気味に「おしっこが出ないんだけど…。」と小さな声で私に言ったのです。

 

患者さんは、午前中に処方されたPL配合顆粒を帰宅後すぐに飲んだそうです。しかしその後何となく尿の出が悪くなり、夕方ごろにはおなかがパンパンにはってきて尿が全く出なくなってしまったとのことでした。

 

女性薬剤師から副作用として尿閉が生じうることは聞いていたので副作用だとすぐわかったとのことですが、総合病院は泌尿器科の午後の診察がないために受診できず、内科クリニックでは診察前に女性看護師に症状を説明しなければならないので恥ずかしくて受診できず、薬局に電話して女性薬剤師に相談するのも恥ずかしく、唯一の男性薬剤師である私を頼って直接薬局へ来たとのことでした。

 

経緯から判断してPL配合顆粒による尿閉の疑いが濃厚でしたし、腹部膨満感もあることから導尿などの処置がすぐに必要なのは明らかでした。
そこで私は緊急で総合病院の救急外来を受診するように説明しました。

 

しかし患者さんは「自分で経緯を説明するのは恥ずかしいなぁ…。受診しないといけない状態なの?困ったなぁ…。もう少し我慢してみるよ。」などというのです。そんなことをしていて腎臓に障害が生じてしまったら大変です。

 

私は患者さんを説得するために、患者さんの目の前で総合病院に電話をして症状を伝えました。
もちろん病院の担当者からは「すぐ救急外来を受診して下さい」との回答がありました。

 

それを患者さんに伝えると患者さんはやっと納得したようで、「大変な状態だということはわかったよ。今から受診してくるよ。」といって総合病院へ向かいました。

 

後日来局された患者さんによると、総合病院ではすぐに導尿の処置を行ってくれたそうです。しかし念のため数日間入院し、経過観察を行ったとのことでした。

 

腎臓の方も特に異常はなく、事なきを得たそうです。
ただやっぱり入院中も女性看護師にいろいろ処置してもらうのが恥ずかしくてイヤだったようで、導尿や清拭は男性看護師にお願いしたとのことでした。

今回の過誤はどうすれば防ぐことができたのか

 

調剤過誤防止策1.進行性疾患では、副作用歴の有無を過信してはならない

 

今回の過誤の原因は、患者さんが前立腺肥大症であることに気が付きながらそのままPL配合顆粒を交付したことにあると思います。

 

確かに今までもPL配合顆粒は処方されていましたし、気になる副作用もありませんでした。しかし、前立腺肥大症は進行性疾患です。たとえ今まで副作用歴がなかったとしても、病状が以前と同じとは限りません。
症状が進行すれば今まで生じなかった副作用が生じる可能性もあります。

 

そのことを失念していたことが一番の問題でしょう。

 

患者さんの有する合併症に応じて、生じやすい副作用あるいは重篤な副作用の初期症状を詳しく説明し、また、今まで飲んだことがあり問題がなかった薬であっても副作用が生じうることをしっかり説明する必要があると考えます。

 

調剤過誤防止策2.お薬手帳の有用性に気づいてもらう

 

もっとも、進行性疾患に限らず患者さんの病状や併用薬を毎回確認するのは薬剤師の業務として当たり前のことでもあります。

 

日常で生じたちょっとした変化の話から病状の変化を把握することができることもありますし、併用薬の変更・追加は非常に大切な情報となります。必要に応じて疑義照会を行えば、重大な副作用を回避することもできるかもしれません。

 

しかし、患者さんの中には「毎回同じことを聞かれるのはイヤ」「面倒くさいから答えたくない」という方も少なからずいます。

 

今回の患者さんのように女性薬剤師に対する羞恥心から「前と一緒だよ。何も変わりないよ。」とその後の会話をブロックしてしまう方もいます。そのような方にはお薬手帳の活用を積極的にすすめるべきだと思います。

 

お薬手帳にしっかり記録があれば、併用薬の変更・追加はもちろんのこと、病状の変化もある程度把握することができます。
そうすれば、患者さんにしつこく併用薬や病状の変化を聞く必要もありませんし、患者さんに不快な思いをさせることも少なくなるでしょう。

 

ちなみに今回の患者さんは、お薬手帳を出すと併用薬や病気がわかってしまうので「本当は毎回お薬手帳を持っていたのだけれど、恥ずかしくて出せなかった。」とおっしゃっていました。
そういわれてみると、この患者さんはお薬手帳を処方せんとは一緒に出してくれず、お薬手帳を出してくれるのは私が服薬指導を担当したときだけだったような気がします。
しかしそれではお薬手帳を持っている意味がありません。

 

そこで、お薬手帳がどのような機能を持っているのかをしっかり説明しました
併用薬や合併症の確認ができれば、今回のような重篤な副作用は避けられたかもしれないことも説明しました。

 

患者さんは納得したようで、「これからはお薬手帳を出すようにするよ。ほかの薬局でも出すよ。」と言ってくれました。

 

確かに、今まで副作用歴のない薬で突然副作用が生じた今回のようなケースでは、お薬手帳を活用しても副作用を避けることが難しいかもしれません。しかしお薬手帳で併用薬や合併症を確認することができれば、それらに応じて発生しやすい副作用の説明をしっかりすることができます。

 

一般的な広く浅い説明ではなく、ピンポイントで深く説明することができれば、患者さんにも話が伝わりやすいと考えます。

 

調剤過誤防止策3.起こりうる副作用をしっかり説明する

 

今回は尿閉について薬剤師がしっかり説明していたために、患者さん自身が副作用に気がつき腎障害など重篤な症状が生じる前に適切な処置を行うことができました。
この点は非常に運が良かったと思います。

 

一方で、「尿閉」の先にある「腎障害」についてはほとんど説明がされていなかったため、患者さん自身にあまり危機感がなく、一歩間違えれば大変なことになっていた可能性もありました。

 

副作用の話をどこまでするかという点は非常に難しい問題ではありますが、患者さんに副作用を疑う症状が出た場合には、その先にある最悪の事態もしっかり説明するべきだと思いました。

 

定期処方の薬であっても、今まで何度か処方されたことのある薬であっても、副作用は生じる可能性があります。副作用の初期症状に気づくことができるのは患者さん自身あるいは家族の方です。薬剤師ではありません。

 

今回のケースでは、重篤な副作用の初期症状をその都度注意喚起することの大切さを学びました。そして、患者さんに副作用を疑う症状が出た場合には、その症状を放置するとどうなるかをしっかり伝え、必要に応じて医療機関への受診をすすめるべきだと思います。

 

調剤過誤防止策4.薬歴に副作用歴・既往歴などの記録を残す

 

今回の件は、調剤過誤レポートを作成して薬局に勤務する従業員全員に詳しい経緯を知ってもらいました。そして薬歴には前立腺肥大症であること、PL配合顆粒で尿閉の副作用が生じたことをしっかり記録しました。

 

また、同じような過誤が今後生じてはいけないので、前立腺肥大症や緑内障があることのわかっている患者さんについては薬歴の表紙に大きく赤字で「前立腺肥大症あり」「緑内障あり」の書き込みをしました。

 

もちろんこれだけでは禁忌薬を交付してしまうという過誤を100%防ぐのは難しいでしょう。だからといって対象疾患や対象薬剤を拡大しすぎて注意書きが多くなりすぎるのは逆効果だと思っています。

 

今後、どのようにすれば患者さんの生命身体をしっかり守ることができるのかを検討していこうと思っています。

 

調剤過誤防止策5.服患者さんのプライバシーにも配慮が必要

 

なお、今回の件を通じて患者さんのプライバシーにもっと配慮が必要だと感じました。

 

泌尿器科や産婦人科の処方は非常にデリケートな内容を含むこともあるので、性別の違う薬剤師や看護師、事務職員に内容を知られるのが恥ずかしいと感じる患者さんも少なからずいます。

 

そして精神科などの処方もまた、内容によっては患者さんに対して細かい配慮が必要と考えます。実際、これらの科から処方される薬剤に対する服薬指導はやはり非常に気を使いますし、病状を詳しく聞くのが難しいと感じることもあります。

 

一方で、私が勤務している薬局では内科クリニックの処方せんをメインに受け付けているので、患者さんが受診している他科に対する配慮が十分になされていなかったように思います。これは大きく反省すべき点だと思います。

 

今回の患者さんは非常に恥ずかしがり屋の方で、泌尿器科にかかっていることや前立腺肥大症であることを女性薬剤師には言いづらかったようです。そのため、女性薬剤師が何を聞いても「前と一緒だよ。何も変わりないよ。」という回答しか返せなかったのでしょう。

 

どんなに経緯が長く付き合いが長くても、言えないことはあるものです。医療従事者の立場からすれば特に恥ずかしがるようなことでなくても、患者さんにしてみれば非常に苦痛であることもあります。

 

また、ほかの患者さんに話を聞かれるのを嫌がる患者さんもいます。
これからは、そのような患者さんの様子に気づいたら服薬指導の担当者を変えてみたり、投薬をほかの患者さんから離れたところで行うなどの配慮をしなければいけないと思いました。

 

あらかじめ患者さんの気に入っている薬剤師・話しやすい薬剤師がいることが明らかな場合には、その薬剤師をかかりつけ薬剤師とするのも良いと思います。

 

ちなみに、今回の患者さんについては、今後は可能な限り私が服薬指導を担当することにしました。患者さんからは特に希望はなかったのですが、患者さんの様子をみる限りそれが一番良いと考えたからです。

 

 

参考資料

 

日経メディカル PL配合顆粒
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/11/1180107D1131.html

 

この記事は実際に発生した調剤過誤事例、インシデント事例の聞き取りレポートを元にして、薬剤師個人の年齢や性別等情報を変更した上、薬剤師本人の了承の元に記事化しております。

この記事をかいた人


久米真純(くめ ますみ)薬剤師
薬剤師歴12年…病院勤務6年を経て、大手製薬会社や製薬会社卸で学術DIとして長年勤務してきました。個人的経験から、特に病院勤務での医師やコメディカルの方々との連携した業務には思い入れがあります。OTC医薬品には精通しております。旦那は外資系大手製薬会社のMRとして勤務中。

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